、浅い切り込でなく、深刻に切断されたところの八ヶ岳である。しかし、より多くの興味は、八ヶ岳の欠損した絶頂を、原形に還元して盛上げて見ると、恐らく富士山よりも、遥に高い山になりそうなことである。それは米国の「火口湖国立公園」を抱いているマザマ山の頂部が、今は陥没しているが、これを原形に還元すれば、一万四、五千尺の高さに達するであろう、といわれている如く、またタコマ富士と呼ばれているところの、レイニーア山の欠頂円錐《けっちょうえんすい》を、原始の状態に回復すれば現在の一万四千尺が、一万六千尺以上の高さになるであろうと称せられる如きおもかげを、この八ヶ岳の空線にも存していることである。日本で富士山よりも高い火山を、欠損空線を継ぎ合せ、盛り上げることによって、創造してゆく快味は、八ヶ岳高原にたたずんで、始めて得られるのである。不幸にして、きょうは雨のために、この快味は総《すべ》て失われた。が草木が洗われて、富士山と釜無《かまなし》川の大断層と、南アルプスや、関東山脈の高屏風《たかびょうぶ》に囲まれた日本最大の裾野が、大空を持ちあげるばかりの力をみなぎらして、若い力から溢れる鮮新味で輝きわたるの
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