口にもあるが、大宮口の傾斜が、もっとも峻急であると思う、焼岩の大きな割れ目の内部は、光沢《つや》麗《うるわ》しい灰青色の熔岩が露《あら》われている、三島岳つづきの俵岩《たわらいわ》の亀裂せる熔岩塊と、すれすれによじ登ったが、ベエカア山や、フッド山の氷河を渉《わた》った釘靴《くぎぐつ》をはいていたので、釘が熔岩の裂け目に食い込み、すべりもせずに頂上に出られた。頂上には旅人宿《はたごや》めいた室、勧工場《かんこうば》然たる物産陳列所、郵便局、それから中央の奥宮社殿は、本殿、幣殿《へいでん》、拝殿の三棟に別れて、社務所、参籠所《さんろうしょ》も附属している。案内記に「四壁|屋蓋《おくがい》畳むに石をもってし」とある通りで、奥宮を中心とする山の町である。実に日本国中、最高の町である。アルプスのモン・ブランにもなく、シエラ・ネヴァダのマウント・ホイットニイにも見られない町である。浅間神社の主典《しゅてん》、富士武雄氏の好意ある接待に預かり、絵ハガキや案内記を頂戴する。絶頂の郵便局から、大宮町の大山さんと電話通信をした。日本の一番高い町から、もっとも低い町への通話である。その間に茨木君は「コノシロ
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