や糸立を強くつかんで、大宮口の五合目へ、ほうほうの態《てい》でたどりつき、たき火でぬれた上衣を、かわかすのに暇取った。
 ここから宝永山の噴火口へは、三丁位であろう。雨あがりのすんだ空に、第一噴火口と、第二噴火口の馬の脊道《せみち》に立って見あげる。火口壁は四十度以上の急角度で、胸突《むなつき》八丁よりも峻嶮《しゅんけん》に、火口底までは直径約一千尺の深さで、頂上内院大火口よりも深いものである。灰青色した緻密の熔岩と砂礫と互層をしているところを、筋違《すじか》いに岩脈がほとばしって、白衣の道者たちが大沢で祈ったのと同じように、この岩脈を十二薬師の体現と信じて、崇拝するという話である。ともかくも、赤く焼けてくすぶった熔岩や、白ッちゃけた岩脈のくずや、黒い小粒の砂礫が、無秩序に積み累《かさ》ねられたところは、九千尺に近い山中というよりも、かきや蛤《はまぐり》の殻を積み上げた海辺にでも、たたずんでいるようであった。
 お中道めぐりの時は、ここから御殿場の三合目の小舎に出て下山したが、これより先、大宮口から茨木君と長男を連れて来たときは、この大宮口の五合目の室から六合七合と登った。そして七合五
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