のなまりならんという)を超越して、多くの側火山《そくかざん》と噴気口を行列させている。だれでも目につく大室《おおむろ》山を先手にして、その後に寄り添って、長尾山、片蓋《かたふた》山、天神山、弓射塚、臼山など、富士山を御本丸として大手からめ手に、火山の出城を築きあげている。その凸点だけを残したほかは、全部樹海や、大裾野の緩斜地で、すりおろしのわさびの、水々しい緑にひたっている。
 石楠花《しゃくなげ》の群落が一時途絶えて、私の歩みは御庭へと移された。高峰の花のあるところに、お花畑の名はつき物だが、御庭はあまり聞かない名だ。小舎が近ごろ出来て保存の不完全な火山弾が、一つ二つ庭に転がっている。富士の植物はもとより、金峰山から移した高山植物などがその辺に試植されている。ここから精進口の登山新道、三合目へ下りることが出来て、途中に中庭、奥庭などを通過するそうだ。
 脚下には、富士五湖中で一番深いといわれている本栖《もとす》湖、それを囲んだ丘陵、遥に高く、天子山脈や、南アルプスの大屏風《だいびょうぶ》が立ちふさがっている。天子山脈の上に、湖水をたたえたような雲は、山の落ち口に添うてはい下る。甲府盆
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