ているところでは――であった。
 倉橋君と私と一緒になって、石の峰を絶頂まで辿りついたころは、正午を少しばかり過ぎた、高頭君以下も、やがてつづいて来た、絶頂は大別すると、三つに岐《わか》れていて、偃松が少しばかり生えている、初めのは四角張った石を畳み上げてある、中には三角測量標が立っている、高く抜き出る北岳の頂から、更に自分だけ高く抜いたこの三角点は、日本南アルプスの中で、縋《すが》り得べき土地の垂直的突端である、それから上は絶対無限の空ばかりだ、三角標の基脚には黄花石楠花《きばなしゃくなげ》、チングルマ、アオノツガサクラ、浦島ツツジ、四葉シオガマ、白山一華、偃松などが西の障壁へと、斜めに飛び飛びに漂っている。
 小さい石祠がある、屋根には南無妙法蓮華経四千部と読まれた、大日如来《だいにちにょらい》と書いた木札が建ててある、私たちの一行より、二十日も前に登山した土地測量技師や、昨年登山した東京の人たち、山麓|蘆安《あしやす》村でよく聞く名の森本某、名取某の名刺が散らばっている。
 外にも壊れかかった石祠がある、中には神体代りの小鉄板が、※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《さ》び
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