さ》りながら、大石の側へ、寄って来る、そこには宗義が先刻から、銃を取り直して待っている、しかし火蓋の切りようが、狙った壺より少し早過ぎたために、羚羊はびっくりしながらも、驚くべき速力で、向うの山へと駈け上った、そうして偃松の傾斜の中へ入って、岩を楯にまたキョトンとして、こっちを見ている、角は木の枝のようで、体は岩のようにぴったりと静まる、宗義は銃を負って、岩から岩を殆んど四足の速さで、飛びながら追っかけたが、竟《つい》に遁《に》がしてしまった、もっとも羚羊は跛足を引いていたから、たしかに銃丸《たま》が、足へ当ったろうとは後で言っていたが。
ここから仰いだ白峰の北岳は、峻急に聳えて、肩幅も、おもいの外広く、頂上は幾多のギザギザがありながら、大体において平ッたく切截したようになって、間の岳つづきの尾根から、抓《つま》み上げられたように、北方の天に捏《こ》ねられている、まるで麦酒《ビール》の瓶を押し立てたようだと、高頭君は半ば恐怖を抱いて言った、その壮容は、殉教者や迷信者を作って、引き寄せるだけの価値があった、もう日は真ッ直ぐに照りつけるようになって、黄色の烈しい光線が、眼をチラチラさせる
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