熔岩《ラヴァ》の塊が、珊瑚礁における、珊瑚片のように散乱している、これらは他の大山脈に多く見られない現象で、日本アルプス山岳景の特色と言っても、大した差支《さしつかえ》はなかろうかと思われる。
欧洲アルプスに有って、日本アルプスにないものは、石灰岩質の大山嶺である、石灰岩が、地下の伏流や、地上から滲透する水などのために、含有している炭酸を溶解され、内部から同地質の岩石を分解して、内部は広く外部は狭い洞窟などを作っていることは、秩父山地などに、最も多く見られるところであるが、日本アルプス地方では、梓川に近い白骨《しらほね》温泉に「ついとおし」という石橋だの、「鬼ヶ城」という鍾乳洞を見ることが出来るが、そんな小技巧は、山岳景に重きを加えるほどのものではないとして、石灰岩質の大山岳は、日本アルプスには見ることが到底出来ない、随って欧洲アルプスなどで最も純粋の紫や、孔雀《くじゃく》の羽のような濃厚深秘な妖色《ようしょく》を示すことのある、伊太利《イタリー》ドロマイト(白雲岩)に比べ得べき秀麗な山岳は絶えて見られないのであるが、幸いに御嶽や、乗鞍岳や、また日本アルプスの区域以外ではあるが、加賀
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