よもぎ》が沙《すな》の中に埋まって生えている、大さな石から石には、漂木が夾《はさ》まって、頭を支え、足を延ばし、自然の丸木橋になっているところを、私たちは上ったり下りたりした、水は膝頭までの深さなら、渉ることにしている、急流になると、嘉門次に手を取ってもらって、あやしい足取りをして渉る、そういうときに、犬は石から石を伝わり、川面を眺めて、取り残されたのを哀しむように吠える。
 幅が濶くなると谷川が二つにも三つにも分れて、大きな石が、おのずと洲の上に堤防を築いている、葱《ねぎ》のような浅青色の若葉をした川楊が、疎らに立っている、石に咽《むせ》ぶ水烟が、パッと立って、梢から落ちる雨垂と一ツになって、川砂の上を転がっている、川楊の蔭に入っている分流は、うす蒼くなって、青い藻が細やかな線と紋を水面に織り出しながら、やんわりと人里を流れる小川のように、静かに澄んでいる。空は藍鼠色に濁って、雨雲が真ッ黒な岩壁に、のしかかっている。
 岳川岳の方から「白出し沢」という白い砂石が押し流して来ている、両方の川縁の浅そうなところを選って、右左とS字状に縫って、徒渉をする、いけないところは、森の中へ入る、ゴ
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