せているのではあるまいかと思われた、崖の高い、曲りくねった路には、長い蔓を這《は》わせて、葛の三ツ葉が、青く重なり合い、その下から川の瀬音が、葉をむくむくと擡《もた》げるようにして、耳に通《かよ》って来る、対岸の山を仰ぐと、斜めに截《き》っ立った、禿げちょろの「截《たち》ぎ」の傍には唐松の林が、しょんぼりと黒く塊まっている。
山の宿屋というものを、思わせる「糸屋」と看板を出した旅籠屋《はたごや》には、椽側に紡車《つむぎぐるま》を置きっ放しにして、ひっそりかんとしている、馬車はここで停まった。
私は重い行李を、車の中にしばらく置き去りにして、島々橋を渡った、橋の下は、島々谷の清い水が、蜻蛉《とんぼ》の羽を見るように、底の石を綾に透かして、落ち口には、卵の殻のような、丸い白石が、おのずと並べられて、段を作っている、石灰岩の上を流れるために、いつも濁っている梓川の本流に、この島々谷の水が、いきおい込んで突きかかるところは、灰と緑と両様の水が、丁字に色別けをされて、やがてそれが一つの灰白色に、ごっちゃにされて、縺《も》つれ合いながら、来た後を振り返り、振り返り、グイグイと流れて行くのを見て
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