ば、黄な碼碯《めのう》色のものや、陶磁器の破片のように白く硬く光っているのもある、青い円石の中に、一筋白く岩脈《ダイク》の入ったのが、縞芒《しますすき》でも見るようで美しい、この高らかな大なる山稜を見ていると、何十万年となく、孤独の高い座を守っている聖堂でも見るように思われて、私は偶像崇拝者の気になり、何だか自分でひとり決めに、日本人の総代になったつもりで、ちょっと目礼をしてみた、実際石と石の間に割り込んだ我々三人は、石の仲間入をしたので、誰も石よりも、権威のあるものだと、信ずるわけにはゆかなかった。
 うす日で安心していた間もなく、雨がザッとふり注いで来た、谷の中で雨に降り出されるほど、滅入った気になることはない、ゆうべ槍ヶ岳の峰頭から見た、北の空の燃え抜けるように美しい夕日も、今になって見ると、神棚の火のように影がうすいものであった。私は頭の中まで、ぼんやりと膜が下りたようになった、眼鏡は曇って、一寸先を見透すのさえ大なる努力を要する、外套のおもてには、雨が糸筋を引いていい加減に結び玉を拵えては、急にポロポロと転び落ちる、それが人間よりは、生命のある原子のようにも思える、両側の青木
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