、湿めッぽく煙っているので、雪の海に、小さな森を載せた島嶼《とうしょ》が突き出ているようだ、私が踏んがけた雪は、思いの外に堅く氷っているので、さらぬだに辷りやすい麻の草履が、よく磨きあげた大理石の廊下でも走るように、止めどもなくつるつると滑り始めた、前にのめって顔でもすりむいてはと、気がかりになって、ちょっと反り身になると、身体が膝を境に「く」の字の角度をして、万年雪のおもてが、蚯蚓張《みみずば》りに引ッ掻かれたかとおもうとき、金剛杖は私の手から引ッたくられたように放り出されて、私は両手で雪を突いた、傾斜がついているから、そのはずみに、軽い体が雪の上を泳ぎはじめた、アッア、アッと本能的に叫んだときには、足の爪先が吊《つ》り上げられたように、万年雪を蹴って、頭の中は冷たい水をさされた、もういきおいのついたうわずった[#「うわずった」に傍点]身体が、雪田の境にある断石の堤防へ、けし飛んで行った。
先へ下りた嘉代吉が、血相かえて、私に抵抗するように、大手をひろげて、向って来たかとおもったとき、私は嘉代吉の懐にグイと抱き締められていた、「どうしました、怪我はしませんか、怪我は」私は黙って首を
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