らは川楊の木立かくれに、河原が白く見え、せせらぐ水は、白樺や水楊の木の間から、翠の羽を一杯にひろげた孔雀のような、贅沢な誇りの緑を輝やかせて、かなりな傾斜を、スーイ、スーイとのして行く。
 朝など、早く起きると、東の低い山の尾根が、最初に白んで、光線が山の頭をうっすりと撫でたかとおもうと、対岸の川楊の頭が、二、三寸だけ、陽炎《かげろう》でも燃え立つように、ちょろりと光る、瞬く間に川に向っている私の室は、朝日が一杯にさしこんで、夕日のように、赤々とまぶしくなる、そのうちに東の山々は、晃々《こうこう》としてさし昇る日輪の強い光に、ぼい消されて、空が赫《かっ》とする、もう仰いでいると、眼のまわりが、ぼやけてしまって、空だか山だか、白金のように混沌として分らない、霞沢岳や八右衛門岳は、その反射を受けて、岩塊が鮮やかに白くなるが、あまりに垂直なる岩壁の森林は、未だ暗黒で、幾分の夜の残りが漂っているようである、そうして梓川の大動脈を間に挟んで、霞沢岳は穂高岳とさし向いになっている、両方の山とも、鋸《のこぎり》の歯のような岩壁を天外にうねらせて、胸部の深い裂け目から、岩石の大腸を露出しているのが、す
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