」、第4水準2−91−94]《らんてん》色や、紺色に染まって、緑と青のシンフォニイから成った、茫とした壁画を見るようで、強く暗く、不安な威圧を与える、さすがに谷の底だけに、木の根にも羊歯《しだ》が生えたり、石にも苔が粘《こ》びりついたりして、暗い緑に潜む美しさが、湿《うる》おっている。
 谷が狭くなるほど、両岸は競《せ》り合うように近くなって、洗ったような浅緑の濶葉に、蒼い針葉樹が、三蓋笠《さんがいがさ》に累《かさ》なり合い、その複雑した緑の色の混んがらかった森の木は、肩の上に肩を乗り出し、上から圧しつけるのを支えながら、跳《おど》り上った梢は、高く岩角に這いあがり、振りかえって谷を通る人を、覗き込んでいる、この谷を通る人は、単調な一本道でありながら、山の襟が折り重《かさな》っているので、谷がまだ幾筋も出ていると知り、奥山の隈がぼーっと青くなっているので、日が未だ高いのであると思っている、そうして前の山も後の山も、森林のために、肌理《きめ》が荒く、緑※[#「靜のへん+定」、第4水準2−91−94]《りょくてん》にくすんだところへ、日が映って、七宝色に輝き出すと、うす暗い岩屏風から、高い
前へ 次へ
全79ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小島 烏水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング