その爪先を綺麗《きれい》に洗って流れて行く、ノキシノブの、べったりと粘《つ》いた、皺の皮がたるんだ桂の大木や、片側道一杯に、日覆いになるほどに、のさばっている七葉樹《とち》やで、谷はだんだん暗くなる、その木の下闇を白く抜いて、水は蒼暗い葉のトンネルを潜って、石を噛んでは音を立てる、小さな泡が、葉陰を洩れた日の光で、紫陽花《あじさい》の花弁を簇《むら》がらしたような、小刻みな漣《さざなみ》を作って、悠《ゆ》ったりと静かにひろがるかとおもうと、一枚|硝子《ガラス》の透明になって、見る見る、いくつも亀甲紋に分裂して、大きな水粒が、夕立降りにざあと頽《くず》れ落ちたり、飛び上ったりする。
私はくたびれたので、椹《さわら》の大木の根元に腰をかけて、嘉代吉と話をしながら、梢の頭をふり仰ぐと、空は冴えた碧でもなく、曇った灰でもなく、乳白色の雲が、銀光りをして、鱗《うろこ》のようにぬらぬらと並び合い、欝々《うつうつ》と頭を押しつけて、ただもう蒸し暑く、電気を含んだ空は、嵩《かさ》にかかって嚇《おど》かしつけるようで、感情ばかり苛立《いらだ》つ、そうして存外に近い山までが、濃厚な藍※[#「靜のへん+定
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