《がまた》谷に下り、右俣に入りて、蒲田温泉に一泊。
二十四日 蒲田より白水谷を渉《わた》り、中尾を経て、割谷に沿い、焼岳(硫黄山)の新旧噴火口を探りて、再び上高地温泉に一泊。
二十五日 宮川の池に沿いて、宮川の窪を登り、岩壁を直進して、御幣岳の最南峰に登り、各峰を縦走して、二十一日の来路と合し、降路は下宮川谷に入りて、梓川に下り、上高地温泉に帰宿。
二十六日 上高地温泉を発足、徳本峠を越え、島々を経、馬車にて松本に到る。
[#ここで字下げ終わり]

    灰

      一

 汽車が桔梗ヶ原を通行するとき、原には埃《ほこり》と見|紛《まぎら》わぬほどに、灰が白くかかって、畑の桑は洪水にでもひたされたあとのように、葉が泥|塗《ま》みれになって、重苦しく俯向いている、車中の土地の人は、あれがきのう降った焼岳の灰で、村井や塩尻は、そりゃひどうござんした、屋根などは、パリパリいって、針で突っつくような音がしましたと、噴火の話をしてくれる。
 刈り残された雑木林の下路が、むら消えの雪のように、灰をなすりつけている。レールに近く養蚕広告のペンキ塗の看板が、鉛のような鉱物性の色をして、硬く平っ
前へ 次へ
全79ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小島 烏水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング