光る、山体が小さく尖って来るほど、風が附き添って攀じ上り、疾《はや》く吹きなぐるので、熔岩を楯に身をすぼめ、味も汁気もない握り飯を喰べて、腹を拵える。
 九合目に来た、もう一杯の雪で、コンクリートで堅めたように凍っているから、鳶口ででもなければ、普通の金剛杖では、立ちそうにもない、胸突八丁、大ダルミなどは、大分息苦しく、殊に足の辷《すべ》り方が烈しかったが、それでも思いの外に、怯《ひる》まずに登りついた。
 駒ヶ岳から浅間祠前は、雪が凝《こお》って、鱗のように、あるいは貝殻を刻んだように、皺が寄っている、一尺位は深いところで積っているかも知れないが、杖が立たないから、測ることも出来ず、また実はそういう、余裕も、寒さのためになかったので、直ぐに鉄の頸輪のように、噴火口を繞《めぐ》れる熔岩塊の最高点、剣ヶ峰――海抜三七七八|米突《メートル》まで登り切ると、北風は虚空の中を棒を振るようにヒュウヒュウ呻り声を立て、顔や手足の嫌《きらい》なくチクチク刺す。初冬の山と幾分か軽く視て、雪中の登山服装というほどの準備もしていなかったため、幾重の衣も徹されて、腹から股にかけ、薊で撫で廻されるような疼痛を
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