《けむり》っぽく白くなって、上へ行くほど藍がかる、近処の黄木紅葉が、火でも点《とも》されたようにパッと明るくなる、足許の黒い砂には、今まで見えなかった楢の落葉や、松の繋ぎ葉などが、シットリと舐《な》められたように粘ッついている。朝日を反映さする金茶色の唐松と、輝やく紅葉――そのくせ、もう枯れ枯れに萎《しな》び返って、葉の尖《さき》はインキを注《さ》したように、黒くなって、縮れている――で、夏ならば緑一色のちょんぼりした林が、今朝は二、三倍も広くなったような気がする。曙の色は林の中まで追いついて、木膠や蔦の紅葉の一枚一枚に透き徹る明る味を潮《さ》して、朝の空気は、醒めるように凛烈《りんれつ》となった。
 中の茶屋へ着くと、松虫草の紫は、見る影もなく褪《あ》せているが、鳥冑草は濃紫に咲いている、そして金屏風を背後にした菊花のように、この有毒植物の、刺戟強い濃紫は、焼砂の大壁を背景にして、荒廃の中に、一点の情火を、執念《しつこ》くも亡ぼさずにいる。
 太郎坊へ着いて見ると、戸は厳重に釘づけにされ、その上に材木を筋交えに抑えにして、鋼線で結びつけてあるが、寂《ひ》ッそりとして、人の気はなく、案
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