、中央に鳥形の赤裸なるを御覧あるべく、これが埴輪の鳥形に候なり、これには脚なくして、二股の尾あるを見給うべきも、この図は、雪なきときの切崖の露出にて、雪少しにても降れば、この尾は消えて、脚を生じ、例の埴輪の鳥の如き形となるに候、いずれにせよ、鶏ならずして、立派な水鳥、小生の大好きなスワン(伝説に最も縁多き)の形に仰がれ候、図中、鳥形の左なるへ形[#「へ形」に傍点]の山は、もと白峰つづきの山かと存ぜしに、曇日などに白峰見えずとも、この山明かなるにて、別峰なることを知り候、今日この山に、非常の降雪ありしように候、雪降りては、農鳥より右は真白なれど、左は縦谷のみ白く仰がれ、膚は容易に、白くならぬように候。
これより右、地蔵鳳凰を越えて、槍ヶ岳の駒ヶ岳と、峭立しては、絶景の極、駒と並べて見て、白峰は益《ますま》す立派さを増すに候、農牛、農爺、蝶、白馬、これらが信甲駿の空に聳えて、相応ずる姿、鏡花の『高野聖』に、妖女が馬腹をくぐる時の文句に「周囲の山々は矗々《すくすく》と嘴《くちばし》を揃え、頭を擡《もた》げて、この月下の光景を、朧《おぼ》ろ朧ろと覗《のぞ》き込んだ」とやらありしを思い出で、何や
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