方面との二つである。蕪村であったか誰だったか、「花茨《はないばら》故郷の路に似たるかな」は、似た方からの見方だ。その反対に、似ても似つかぬところに、新しい驚異の心を抱かれることもある。シャスタに就いて言うと、氷河地形などは、我が富士山とは似ない方面だが、その他に於て、多くの似顔は、合せ鏡をしている姉妹でもあるかの如くに感じられる、そう思うとき、我々日本人に取って、シャスタ山は、もう錠前を卸《おろ》した山ではなくなった。
私の観察したシャスタを、漢文者流の口調を借りて、人間本位で言うならば、とかくに不遇の山水である。第一にシャスタ山は、太平洋沿岸に近い山としては、早く発見された方ではない。同じ太平洋岸でも、有名な航海者「ヴァンクウバア」が、フッド火山や、ベエカア火山や、レイニーア火山を発見してから、三十四年も後に、シャスタは、やっと存在を認められた。西班牙《スペイン》の探検者たちが、加州にシエラ・ネヴァダ山脈を見つけたよりも、三世紀も遅れている。メキシコの大火山、ポポカテペトルの第一登山が報告されてから、三百年も後になって、シャスタは地図の上に戸籍が入った。しかし始めて登られたのは、一
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