直接に果が生ずるがごとく考えて、因縁和合の上の結果であることに気づかないのである。しかもこれがあらゆる「迷い」の根源となっているのである。すなわち凡夫の迷いとは、つまり因縁の理を如実にさとらないところにある。別言すれば、因縁の真理を知らざることが「迷い」であり、因縁の道理を明らめることが「悟り」であるといっていい。
 おもうに今日、一部のめざめたる人を除き、国民大衆のほとんどすべては、いまだに虚脱と混迷の間をさまようて、あらゆる方面において、ほんとうに再出発をしていない。色即是空と見直して、空即是色と出直していない。所詮、新しい日本の建設にあたって、最もたいせつなことは、「空」観の認識と、その実践だと私は思う。このたび拙著『般若心経講義』を世に贈るゆえんも、まさしくここにあるのである。この書が、新日本文化の建設について、なんらか貢献するところあらば、著者としてはこの上もないよろこびである。
  昭和二十二年春
[#地から6字上げ]東京 鷺宮 無窓塾
[#地から2字上げ]高神覚昇
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第一講 真理《まこと》の智慧
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