わらず、いつまでも、どこへ行っても、いやこれが東だ、いやこれが西だ、といっていたら、果たしてどんなものでしょうか。
 ところで、なにゆえに「智もなく亦得もなし」というかと申しますに、それはつまり「無所得を以ての故に」であります。すなわち「無所得だから」というのです。で、問題はここに一転して、「無所得とはなんぞや」ということになるのです。中国の有名な学者|兪曲園《ゆきょくえん》(清朝の末葉に「南兪北張《なんゆほくちょう》」といわれ、張之洞《ちょうしどう》と並び称せられた人)の書いた随筆に、『顔面問答[#「顔面問答」は太字]』というのがあります。それは「口」と「鼻」と「眼」と「眉毛《まゆげ》」の問答です。お互いの顔を見ればわかりますが、いったい人間の顔のいちばん下にあるのが口です。その上が鼻、その上が眼で、いちばん上にあるのが眉毛です。口の不平、鼻の不満、眼の不服は、この眉毛の下にあるということです。彼らは期せずして、眉毛の「存在価値」を疑ったわけです。口、鼻、眼から、「なにゆえに君は僕らの上でえらそうにいばっているのか、いったい君にはどういう役目があるか」と詰問せられた時の眉毛の答えは、
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