生かしてゆくことです。ある時、黒田如水が太閤《たいこう》さんに尋ねました。
「どうして殿下《あなた》は、今日のような御身分になられましたか。何か立身出世の秘訣《ひけつ》でもございますか」
といって、いわゆる「成功の秘訣」なるものを尋ねたのです。その時の秀吉の答えが面白いのです。
「別に立身出世の秘訣とてはないのじゃ。ただその『分』に安んじて、懸命に努力したまでじゃ。過去を追わず、未来を憂えず、その日の仕事を、一所懸命にやったまでじゃ」
草履《ぞうり》とりは草履とり、足軽は足軽、侍大将は侍大将、それぞれその「分」に安んじて、その分をりっぱに生かすことによって、とうとう一介の草履とりだった藤吉郎は、天下の太閤秀吉とまでなったのです。あることをあるべきようにする。それ以外には立身出世の秘訣はないのです。五代目菊五郎が、「ぶらずに、らしゅうせよ」といって、つねに六代目を誡《いまし》めたということですが、俳優《やくしゃ》であろうがなんであろうが、「らしゅうせよ[#「らしゅうせよ」は太字]」という言葉はほんとうに必要です。私はその昔、栂尾《とがのお》の明慧上人《みょうえしょうにん》が、北条泰時
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