の中に、一つの古い井戸がありました。そしてその井戸には、一筋の藤蔓《ふじづる》が下の方へ垂《た》れ下がっていました。天の与えと喜んで、旅人は急ぎそれを伝って、井戸の中へ入ってゆきました。狂象はおそろしい牙《きば》をむいて覗《のぞ》きこんでいます。ヤレまあよかったと、旅人がホット一|呼吸《いき》していると、井戸の底には怖《おそ》ろしい大蛇《だいじゃ》が口を開いて、旅人の落ちてくるのを待っているではありませんか。駭《おどろ》いて周囲を見まわすと、どうでしょうか、四方にはまだ四|疋《ひき》の毒蛇がいて、今にも旅人を呑《の》もうとしています。命とたのむものは、たった一本の藤蔓です。しかしその藤蔓もです、よく見れば、黒と白の二疋の鼠《ねずみ》が、こもごもその根を噛《かじ》っているではありませんか。もはや万事休すです。全く生きた心地はありません。ところがです。たまたま藤蔓の根に作っていた蜜蜂《みつばち》の巣から、甘い蜜がポタリポタリと、一滴、二滴、三滴、「五滴」ばかり彼の口へ滴《したた》りおちてきたのです。全くこれは甘露のような味わいでした。そこで旅人は、もはや目前の怖しい危険をも、うち忘れて、た
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