般若心経講義
高神覚昇

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)空《くう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一千二百八十余年|以前《まえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「やまいだれ」、第3水準1−88−44]

 [#…]:返り点
 (例)行[#(ズル)][#二]深

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)行[#(ズル)]
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 序

 いったい仏教の根本思想は何であるかということを、最も簡明に説くことは、なかなかむずかしいことではあるが、これを一言にしていえば、「空《くう》」の一字に帰するといっていいと思う。だが、その空は、仏教における一種の謎で、いわば公開せる秘密であるということができる。
 何人にもわかっているようで、しかも誰にもほんとうにわかっていないのが空である。けだし、その空をば、いろいろの角度から、いろいろの立場から、いいあらわしているのが、仏教というおしえである。
 ところで、その空を『心経』はどう説明しているかというに、「色即是空《しきそくぜくう》」と、「空即是色《くうそくぜしき》」の二つの方面から、これを説いているのである。すなわち、「色は即ち是れ空」とは、空のもつ否定の方面を現わし、「空は即ち是れ色」とは、空のもつ肯定の方面をいいあらわしているのである。したがって、「空」のなかには、否定と肯定、無と有との二つのものが、いわゆる弁証法的に、統一、総合されているのであって、空を理解するについて、まずわれわれのはっきり知っておかねばならぬことである。
 次に空をほんとうに認識するについて、もう一つたいせつなことがある。それは「因縁」ということである。『心経』には因縁について一言も説いてはいないが、因縁を十分に理解しないと、どうしても空はわからないのであって、端的にいえば、空と因縁とは、表裏一体の関係にあるのである。申すまでもなく因縁とは、「因縁生起」ということで、世間のこといっさいみなことごとく因縁の和合によって生じ起るということである。もとよりこのことは、説明を要しない自明の理であるにもかかわらず、われわれはこの自明の理にたいして、平素あまりにも無関心でいるのである。すなわち「因」より
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