してしまつた。下では対局が佳境に入つて、肝腎の急処で二階にゐる筈の参謀にいくら合図をしても一向に通して来ない。不思議に思つて二階を見ると、本因坊の足が格子の間から、ぶらんとぶら垂つてゐた。
これとよく似た話が、私にもあるよ。通し碁、通し将棋、なぞは昔はざらだつたからネ。
秩父の大宮に玉金と言ふ親分がゐた。昔は将棋遊歴をしてあるくのに、よくその土地の顔役の許を手頼つていつたもんだ。あゝ言ふ人たちは手頼つていくとよく世話をして呉れるからネ。私は清水の次郎長親分の許を尋ねていつたことがあるよ。子分達と将棋を指してぶらぶらしてゐた。
玉金親分は太ツ腹の面白い人達だつた。将棋が好きなんだが、下手の横好きと言ふ方でネ、土地の高利貸しに宇野さんといふ人がゐた。この宇野さんの将棋はがつちりしてゐた、どうしても玉金親分は勝てないんだ。
ある時私が訪ねていくと、どうしても宇野さんをやツけてやるんだから、通し将棋をして呉れと言ふんだ。こつちはまだ若いし、面白半分に、
「ようがす、一ツやツけませう」
と言ふ訳になり、しめし合せて土地の料理屋に乗り込んだ。
その仕組かえ、玉金親分と宇野さんが対局して
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