ワード・ジョーンスを紹介し、彼の行った方法に就て記述して見ようと思う。
ジョーンスはサンフランシスコの男で、化学の智識が豊富であった。始め彼は化学に興味を持ち、学問のために身を捧げようとしたが、段々落ぶれて行って友達などが顧みなくなり貧乏のどん底に沈んだために、遂にその科学的智識を悪事に応用した。そうして彼は犯罪者仲間から、Gold Dust Teddy(金粉のテッジー)と綽名されるに至ったのである。
金粉のテッジーと綽名されたのは、彼が常に二つの袋を携え、一方に金粉を入れ、一方に真鍮粉を入れて、バーやその他の場所に出入りし、鉱山師やその他の連中に逢って、いい鴨が見つかると、先ず金粉の方を見せて、その実価の三分の二位で売る契約をし、いざというときに、真鍮粉を渡したからである。
なお又彼は金塊詐欺をも行った。それはやはり、金塊を売る契約をして、いざという時に真鍮の中へ鉛を入れて同じ目方にしたものを渡すのである。買う人はいずれも不正品をやすく買うつもりで手を出すのであるから、彼を訴えることが出来ず、その儘沈黙を守ったので、彼は長い間、その詐欺を営んで居たのである。然し乍ら、とうとう、
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