錬金詐欺
小酒井不木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)抑《そもそ》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)侯[#「侯」に傍点]
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 詐欺は昔から錬金術の附き物になって居る。既に錬金術そのものが、金がほしいという動機が主となって企てられたものであるから、詐欺と縁の深いのは当然のことである。尤も、錬金術の抑《そもそ》もの起りは必ずしも黄金製造のためではなかった。即ちその濫觴《らんしょう》ともいうべきは古代エジプトに於ける金属の染色術に外ならなかったのである。古代エジプトに於ては紫と黒の二色が尊ばれ、織物の染色と共に、主として僧侶の手によって寺院内で行われたのであるが、後にアラビア人が埃及《エジプト》を占領するに及んで、金属の染色だけでは満足せず、卑金を黄金に変化せしめる術を錬金術と呼ぶに至ったのである。
 卑金を黄金に変ずる力を有するものを、欧州では昔から「哲学者の石」と呼んで居る。これは、錬金術師たちが、自分たちに箔をつけるために、錬金術の元祖はみなプラトンやアリストテレスの門人だと言い触らしたためであって、後には「哲学者の
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