り外はない。
心臓は今、さも/\快げに動いて居る。早く僕の血を通してくれといわんばかりに動いて居る。さあ、愈《いよい》よこれから、僕の血液を採る順序であるが、恋愛曲線を完成させたいのと彼女の悲壮な希望を満足させるために、僕も、未《いま》だ嘗《かつ》て試みなかった血液流通法を試みようと思うのだ。今までは注射|針《しん》を以て左の腕の静脈から血を採って居たが、今回だけは、僕の左の橈骨《とうこつ》動脈にガラス管をさしこみ、その儘《まゝ》ゴム筒《かん》でつないで、僕の動脈から、僕の血液が直接彼女の心臓の中に流れこむようにしようと思うのだ。彼女が生きた心臓を提供してくれた厚意に対しこれだけのことをするのはあたりまえのことだ。なお又、恋愛曲線を完成するためにも必要なことだ。
二十分かゝった。
やっと、僕の動脈血を彼女の心臓の中に送りこむことが出来た。血液は威勢よく走り出るので、少しも凝固を起さず、実験は間然《かんぜん》するところが無い。心臓は勇ましく躍る。その躍る姿を眺めて居ると、左手に少しの痛みをも覚えない。左手の傷から少しずつ血が滲《にじ》む。その血を拭《ぬぐ》うためペンを措《お》いて
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