でもありますが、又一つには友江さんの容色が日に日に衰えて行ったからでもあります。いう迄もなく、その恐しい病気のために※[#感嘆符二つ、1−8−75]
 皆さんは黴毒の二期、三期の患者の世にもみじめな姿を御存じですか。感染してから半ヶ年も過ぎた頃には、顔から身体中に種々の吹出ものが出ます。脣の色は蒼白くなって、口中は石榴《ざくろ》のようにただれます。それのみならず、ことに女にとって一ばん恐しいことは、髪の毛が束になって抜けることです。一櫛ごとにはらはらと、いや、はらはらどころか、こっぽりと抜けて来ます。皆さんは義太夫の「四ツ谷怪談」の文句を御承知でしょう。女主人公のお岩が、毒薬をのまされて、にわかに顔がはれ上り、髪の抜け落ちるところに、
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「しんき辛苦の乱れ髪、びんのおくれも気ざわりと、有合《ありあう》鏡台《きょうだい》抽斗《ひきだし》の、つげの小櫛もいつしかに、替り果てたる身の憂《うさ》や、心のもつれとき櫛に、かかる千筋《ちすじ》のおくれ髪、コハ心得ずと又取上げ、解くほどぬける額髪《ひたいがみ》、両手に丸めて打ながめ……」
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 とありますが
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