、本当にこのお岩そっくりの相好といってよいのが、黴毒患者の状態であります。
どうです、皆さん、無邪気な加藤家の一人娘友江さんは、伊右衛門ならぬ良人《おっと》のために、お岩そっくりにされてしまったのです。今に何か恐しい怪談じみた出来事があっても誠にふさわしい事情ではありませんか。皆さん、実際、これからが、私のお話ししようとする怪談の本筋に入《い》るのです。
[#7字下げ]三[#「三」は中見出し]
さて、自分の妻が病気のために、こういうなさけない姿になったら、いや、すでに、かような進んだ状態にならぬ前に、世の常の良人《おっと》ならば、必ず医師にかけるのが当然でありましょう。ところが信之は無情冷酷といってよいか、何といってよいか、友江さんを医者にかけなかったのであります。医者にかければ、直ちに黴毒と診断され、彼のうつしたものであることが妻に知れるのを怖れたからであります。たといおとなしい妻でも、事の真相がわかれば、どんな態度に出るやらわからず、又場合によっては、医師が智慧をかして、そのため離婚の訴訟などを起されてはならぬと思い、彼はそのままに捨てて置いたのであります。何も知らぬ友江さ
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