は種々相談してその手段を考えましたが、もとより、良い方法のある筈はありません。
何はともあれ、先ず、彼と結婚する娘の身許を探らねばならぬと思い、種々探索の結果、件《くだん》の男は××区のある旧家へ養子をするのだとわかりました。驚いたことには、あの時彼自身の口から三ヶ月後に結婚するといったに拘《かかわ》らず、三週間過ぎると結婚してしまいました。養子先は加藤という財産家で、さほど大きな邸宅ではありませんが、旧幕時代からあって、可なり広い庭園にかこまれて居ました。娘の名は友江といって十九歳の美人、養子となった彼の名は信之ですが、信之は元来、加藤家の財産を宛に養子をしたらしく、彼が「延すことの出来ぬ理由」といったのは、延せば他から養子を迎えるという虞《おそ》れに過ぎぬようでした。そうしたさもしい心の持主である上に、身体までが病毒に汚されて居たのですから、加藤家こそいい迷惑です。況《いわん》や無邪気な友江さんは尚更《なおさら》可哀相なものです。友江さんは文字通りの箱入娘で、世間のことは何一つ知らず、良人《おっと》一人を後生大事と侍《かしず》いて居るのでした。
養子を貰って安心したせいか、又は
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