時機を待つことにしたのです。妻と私とは無論度々秘密に会見して手筈を定《き》めることにしましたが、愈よ妻が信之に友江さんを殺そうとする意志のあることをたしかめましたので、その翌日の夜から、私は毎晩、ひそかに加藤家をたずねて、警戒致しました。するとその暴風雨《あらし》の晩が来ました。私は今夜は何か起るにちがいないと、土蔵を監視して居ますと、果して信之がやって来ました。彼はいきなり手拭をもって友江さんを絞殺し、友江さんの紐を解いて死骸を梁に吊し、逃げるようにして去って行きました。彼が若し刃物をつかったならば、飛び出して妨げるつもりでしたが、絞殺を行いましたからはらはらし乍らも、時機を待って居ました。彼が立ち去るなり、私は手早く、友江さんを下し、人工呼吸を施しますと、間もなく息を吹き返しましたので、予《かね》て妻と打合せてあった室に運びこみました。すると程なく、友江さんは産気づきました。生れた子は黴毒のために恐しい姿となって死んで居ました。友江さんが窒息したので、胎児も窒息したのです。胎児は七ヶ月ぐらいのものでしたからとうとう助かりませんでした。一方妻は、かねて酒の中に催眠剤を入れて置きました
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