、友江を見舞って来るから、土蔵の鍵を貸してくれと沢に申しました。沢は頻にとめましたが、どうしてもききません。そこで、沢は一しょに行くと言いましたが、信之はそれをも承知しなかったので、彼女は仕方なく鍵を渡し、恐しい暴風雨《あらし》の音をききながら、がらんとした家の中にちぢこまって居《お》りました。
暫らくすると信之は顔色をかえて、走って来ました。
「沢、友江が首を吊って死んで居る」と、彼は提灯《ちょうちん》をも消さないで沢に告げました。
「ひえッ!」といったかと思うと、沢はその場に気絶して仰向きにたおれました。信之は愈《いよい》よ慌てて水を取りに走り、それを沢の口へそそぎかけました。沢は凡そ二時間あまりも意識を恢復しませんでしたが、やっと、眼をさますと、むっくり起きて、室内の一隅を指し、
「あれ、奥さまが!」
といって顔を蔽いました。信之も流石《さすが》にぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]としたらしいでしたが、
「馬鹿な、誰も居やせん」
「いえいえ、たしかに今、奥さまが、髪を振り乱して、そこに立って見えました」
「そんなことがあるものか」
「それじゃ、もう一度土蔵の中を見て来て下さいませ」
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