暴風雨の夜
小酒井不木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)酣《たけなわ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その時|暴風雨《あらし》
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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[#7字下げ]一[#「一」は中見出し]
秋も酣《たけなわ》なる十一月下旬のある夜、××楼の二階で、「怪談会」の例会が開かれた。会員は男女五人ずつ併せて十人、百物語の故事にならって、百という数の十分の一に相当する十人が毎月一回寄合っての怪談会である。
今夜はF君が、最近手に入れたという柳糸堂《りゅうしどう》の「拾遺御伽婢子《しゅういおとぎぼうこ》」の原本を持って来て、面白そうな物語を片っ端から読みあげたが、そのうち、「逢怪邪淫戒《ほうかいじゃいんかい》」と題する一篇から、はからずも、話に花が咲いたのであった。物語の筋は、喜平次という男が他行《たぎょう》すると、野中で俄《にわか》に日が暮れる。はるか前方に人家の灯影が見えたので、それをたよりに行きついて見ると若い美しい女が一人で居る。色好みの喜平次は思わずも引きつけられて、厚顔《あつかま》しくも女に言い寄ると、案外容易に靡《なび》いて、二人は怪しい夢を結ぶ。ふと、喜平次が夜半《よなか》に目を覚ますと、自分の傍に寝て居るのは、美人どころか異形の化物だったので、ヒャッと言って飛び出すと化物が跡を追って来る。漸《ようや》く化物をまいてある里に辿りつくと、一軒の家で酒もりの声がする。喜平次は胸を撫で下し、その家に避難しようと思って覗き込むと、意外にもそれは妖怪変化たちの集会で、そーらよい肴が来たと、中からみんなが追かけて来る。驚いた喜平次は又もや夢中になって駈け出し、幸いに彼等の追跡を免れて、ホッとしながら、ある里にはいると、鶏の声がしたので、やれ嬉しやと思って道を急ぐと、傍の木蔭から、鬼の形相をした白髪の老婆が、珍しや喜平次といって抱きつき、ウンといって彼は気絶するという、怪談としては、ありふれた筋であった。
ところが、この物語の前半が、会員たちの間に話の花を咲かせたのである。即ち、女にしろ、男にしろ、一しょに寝たものが、目がさめた時、異形の化物に代って居たら、
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