して、室内を照す電灯の珠《たま》が頻に揺れました。

[#7字下げ]五[#「五」は中見出し]

 皆さん。私の怪談の本筋はこれで終りました。申す迄もなく信之が発狂したのは、単に沢が、怖しい姿の赤ん坊に変って居たということばかりではなく、実は、信之は暴風雨《あらし》に乗じて友江さんを絞殺し、縊死《いし》したように見せかけて置いたのでして、その為に起った良心の苛責がその主要な原因となったのでした。
 さて、皆さんは、恐らく、この怪談の真相を御ききになりたいだろうと思いますから、簡単に説明して置きます。この怪談こそは、冒険心に富んだ私と妻との書いた狂言に外ならぬのでした。もはや御察しのことと思いますが、信之の心を奪った女中の沢は、私の妻だったのです。私たちは、是非とも、友江さんを救いたいと思って、種々取り調べた結果、友江さんが黴毒にかかったことや女中が度々出かわることをきき出しました。そこで妻は女中となって住みこみましたが、最早やその頃、友江さんの病気は可なりに進んで居ました。友江さんを盗み出して治療するのは訳のないことですが、何とかして、信之に、十分悔悟させてやりたいと思ったものですから、時機を待つことにしたのです。妻と私とは無論度々秘密に会見して手筈を定《き》めることにしましたが、愈よ妻が信之に友江さんを殺そうとする意志のあることをたしかめましたので、その翌日の夜から、私は毎晩、ひそかに加藤家をたずねて、警戒致しました。するとその暴風雨《あらし》の晩が来ました。私は今夜は何か起るにちがいないと、土蔵を監視して居ますと、果して信之がやって来ました。彼はいきなり手拭をもって友江さんを絞殺し、友江さんの紐を解いて死骸を梁に吊し、逃げるようにして去って行きました。彼が若し刃物をつかったならば、飛び出して妨げるつもりでしたが、絞殺を行いましたからはらはらし乍らも、時機を待って居ました。彼が立ち去るなり、私は手早く、友江さんを下し、人工呼吸を施しますと、間もなく息を吹き返しましたので、予《かね》て妻と打合せてあった室に運びこみました。すると程なく、友江さんは産気づきました。生れた子は黴毒のために恐しい姿となって死んで居ました。友江さんが窒息したので、胎児も窒息したのです。胎児は七ヶ月ぐらいのものでしたからとうとう助かりませんでした。一方妻は、かねて酒の中に催眠剤を入れて置きました
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