g45957_02.png)入る]
私は二本の毛を出して顕微鏡の下で見ますと、死体から抜き取った方は図のAに示してあるごとく、毛根がついていて、尖端すなわち遊離端は木の枝のように三つ四つに割れておりましたが、ベッドの上にあった方は、長さはほとんど同じですが、図のBに示してあるごとく、両端とも、鋏《はさみ》で切った痕《あと》がありました。
俊夫君は、顕微鏡をのぞいて、満足げに言いました。
「兄さん、ベッドの上にあったのは付け髭の毛だよ」
「え? 付け髭?」
と私は驚いて尋ねました。
「そうだよ。両端を鋏で切った毛は生きた人間には生えていないよ。……さあ、これから風呂桶についていた血痕を検《しら》べてくれ、人間の血だと分かればよい」
血痕が人間の血であるか否かを検べるには、血痕の中の赤血球の形を検べても分かりますが、それよりも確かな方法は、血痕を食塩水にとかしてそれと「沈澱素」というものを混ぜ合わせ沈澱が起こるか否かを見るのです。
沈澱素というのは人間の血をたびたび兎《うさぎ》に注射しますと、兎の血液の中に、人間の血と混じると白い沈澱を起こすものが生じますから、その兎の血を取って
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