、血清を分け、腐らぬようにガラス管の中へ保存したものです。
私はまず、ガラスの皿の上に、暖めた食塩水を少し入れ、その中へ俊夫君が削り取ってきた板の血痕を、細いガラス棒をもってとかし込みました。それから、携えてきた沈澱素を取りだし、その少量を細い試験管に配り入れ、およそ十五分の後、その沈澱素の中へ、血痕をとかした液を加えますと、見る間に白い沈澱があらわれました。
これだけの実験では、まだ人間の血だと断言することができません。というのは、人間に近い動物すなわち猿の血痕でも同じように沈澱を起こすからです。けれど人間の血か猿の血かを区別することは、うちの実験室へ帰ってからでなくては行い難いのです。この場合、風呂場に猿の血があったとは考えにくいですから、私は人間の血だといっても差し支えないと思いました。
俊夫君は、私が以上試験をしている間、書斎の中を隅から隅まで捜しました。机の引き出しをあけて中をかきまわしたり、本棚の書物を取りだしてふるってみたりしました。最後に机の脇の本箱の横側にかけてあった丸善の『日めくり暦』に目をつけ、何思ったかそれを取りあげて熱心に撥繰《はぐ》っていましたが、やが
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