て、「あった、あった」と叫びました。

 あまりに、俊夫君の声が大きかったので、私のそばに立っていたPのおじさん、すなわち小田刑事はびっくりして尋ねました。
「何があったんだ? 俊夫君」
「遠藤博士の寿命を縮めたものです」
「何だい?」
「毒瓦斯《どくガス》の秘密ですよ」
 と俊夫君は得意げに言いました。
「遠藤先生を殺した犯人は、先生の発見された秘密を握ろうと思って、この書斎の中を随分さがしたらしいです。けれど、さすがに先生は、金庫の中や、机の引き出しや、書物の中に隠すようなヘマなことはされなかったんです。
 先生は丸善のこの『日めくり暦』の十二月の下旬のところへ、四五枚にわたって、毒瓦斯製造法の秘密を書いておかれたんです。暦は毎年十二月の末に送ってくるものですから、先生は、新しい暦が到着したらまた書きかえるつもりだったのでしょう。毎日めくり取られる暦の中に、大秘密が書いてあるなんて、誰だって考えやしません。そこが遠藤先生のえらいところです。だからとうとう犯人は、これをよう見つけなかったんです」
 こう言って、俊夫君は『日めくり暦』をポケットの中に入れました。
「この暦はしばらく僕が
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