借りておきます。これで犯人を捕まえるのですから、うっかり他人《ひと》に話してはいけませんよ。……時に兄さん、血痕の検査はどうなった?」
 俊夫君は試験管の中の白い沈澱を見て言いました。
「やっぱり、人間の血だね。よし、兄さんちょっとお嬢さんに来てもらってくれ」
 雪子嬢が書斎に入るなり、俊夫君は尋ねました。
「大学はいつから始まるはずでしたか?」
「今月の二十一日からです」
「休み中に先生は学校へお行きになりましたか?」
「いいえ、家《うち》に閉じこもっていました」
「昨晩あなたが須磨からお帰りになったとき、先生のそばへお行きになりましたか?」
「いいえ、機嫌の悪い時はかえって怒らせるようなものですから、寝室の入口に立っていました」
「寝室は薄暗かったとおっしゃいましたね?」
「父は明るい所で寝るのが嫌いでした」
「先生の声はいつもと違っていませんでしたか?」
「少しかすれていましたが、病気のせいでしたでしょう」
「先生は毎日顔をお剃りになりましたか?」
「剃るのは嫌いな方でした」
「最近には、いつお剃りでしたでしょうか」
「寝ついた十一日の朝です。その晩、会があったので、いやいやなが
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