ら剃りました」
「風呂はいつおたてになりましたか?」
「私が兄を呼びに出かけた十三日の夕方です」
「けれどさっき検《しら》べたとき濡れていたではありませんか」
「あれは毎朝、書生の斎藤さんが冷水浴をするのです」
俊夫君はしばらく考えて、再び尋ねました。
「先生のご親戚はありますか」
「叔父が一人あります。父の弟で、今、朝鮮にいるはずです」
「何をやって見えるですか?」
「何もきまった仕事はやっていないようです。自分で朝鮮浪人だと言っています」
「先生とは違ってよほど変わった人らしいですね?」
「ずいぶん変わり者です。蛇の皮をまいたステッキや、蟇《がま》の皮で作った銭入れや、狼の歯で作った検印などを持って喜んでいます」
俊夫君の顔はにわかにうれしそうに輝きました。と、その時、警視庁の白井刑事が一人の青年を連れて入ってきました。令嬢は青年を見て、
「おや、斎藤さん、兄はどうしましたか?」
と尋ねました。
書生の斎藤が答えぬ先に白井刑事は言いました。
「信清さんはまだお帰しできないのです。私はお嬢さんに少しお尋ねがあって来ました」こう言って小田刑事の姿を見て、
「小田君、君は何の用で
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