していた斎藤さんに、兄を起こして連れてきてくれと申したそうでございます。兄が行きますと、父は薄暗い室に蒲団に顔をかくして寝ておりましたそうですが、斎藤さんを寝させてから、二人きりになると、ろくに兄の顔も見ないで、兄に向かって荒い言葉を使ったそうです。
すると兄もそれに対して言い争ったのだそうですが、およそ十分ばかりして、別に話の要領を得ずに再び自分の居間へ帰って寝たそうです。ところが今朝父は手拭《てぬぐ》いで首を絞められて冷たくなっておりまして、しかも、その手拭いには、兄が滞在していた須磨の××旅館の文字がついておりましたので、警視庁から来られた刑事は、兄を嫌疑者として拘引してゆかれました」
ここまで語って令嬢は手巾《ハンカチーフ》でそっと顔を拭《ぬぐ》いました。
「手拭いのことを、兄さんは何と仰いました」
と俊夫君は尋ねました。
「兄はどこで落としたか覚えがないと申しました」
「斎藤さんはいつからお宅へ来ましたか」
「半年ばかり前からですが、父はたいへん気に入っておりました」
「斎藤さんは今、どこにおりますか」
「証人として、兄といっしょに、警視庁へゆきました」
「先生の死骸は
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