?」
「大学の法医学教室に運ばれました」
「お宅に顕微鏡はありますか」
「父の使っていたのがあります」
「それではまず先生の死骸を見せていただいて、お宅へ伺います」

 令嬢が帰るとすぐ、俊夫君は警視庁へ電話をかけて、「Pのおじさん」すなわち小田刑事を呼びだしました。遠藤博士の事件は小田刑事の係ではなかったが、小田刑事の取り計らいで、博士の死骸を見せてもらうことになりました。血液検査の道具と例の探偵鞄とを持って、私たち二人が法医学教室へ行くと、小田刑事は先へ来て待っていてくれました。
 博士の死骸は午後解剖に付せられるべく、解剖室に白布《しろぬの》で覆われてありました。俊夫君は白布を取って一礼してから身体《からだ》の諸方を手で撫でまわしました。首には深いくびれ痕《あと》があって、右の鼻の孔の入口には少しばかりの血の流れた跡がついていました。
 やがて何思ったか、俊夫君はポケットから物差しを出して先生の髭《ひげ》の長さを計りかけました。先生の口髭は立派な漆黒の八の字で、延びるだけ延ばしてありました。顎《あご》から頬へかけての鬚髯《ひげ》はありませんが、病気中は剃らなかったと見えて、一分《
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