くなっておられたのであるが、病気のために急にさびしくなったためか、十二日になって話しておきたいことがあるから電報で信清を呼び寄せてくれと言われたそうです。
そこで令嬢はその日と十三日と、二度も兄さんへ電報を打ったところが、兄さんからは帰るのが嫌だという返事がきたそうです。すると博士は令嬢に向かって、須磨まで行って連れてこいと言われたので、令嬢は書生の斎藤と婆やとに留守を頼んで、十三日の夜出発し、二日もかかって兄さんを説伏《せっぷく》し、昨日《きのう》の朝早く二人で須磨を立って、昨夜一時頃帰宅されたのだそうです。
「ところが昨晩帰りましたら、父はどうしたわけかたいへん怒って、私たちを病室へ入れてくれませんでした。斎藤さんが出てきて、明日の朝先生の機嫌のよい時お会いになった方がよいでしょうと申しましたので、私と兄とは別々の室《へや》に寝ました。私は旅の疲れでぐっすり眠りまして、今朝《けさ》婆やが、父の殺されたのを知らせてくれるまで何も知らずにおりました」
令嬢はここで言葉を切り、俊夫君の顔を見つめて、さらに言葉を続けました。
「事情を聞いてみると、何でも父は昨夜一時頃に、その時まで看護
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