拝見してその髭ののび方の少ないのに驚いたのです。病気中に髭を剃る人は滅多にないから、たとい十一日の朝お剃りになったとしても昨晩までにはもっとのびていなくてはならぬと思ったのです。
 そこで私は物差しを出して髭の長さをはかってみたら一・五ミリメートル内外のものばかりで、二ミリメートルを越したものは一本もありませんでした。髭は一日におよそ〇・五ミリメートルのびるものですから、もし先生が昨晩まで生きておられたのならば、少なくとも二・五ミリメートル以上なくてはなりません。そこで私は先生が殺されなさったのは昨晩ではないと判断しました。
 してみると、昨晩先生のベッドにいた人は、先生の替え玉でなくてはならぬと思ってベッドを捜すと、付け髭の毛が一本見つかりました。替え玉だとしてみると、お嬢さんを近づけぬように怒鳴り散らしたわけがよく分かります。信清さんは久しぶりにお父さんの顔を見られたので、ことに薄暗い室《へや》では、お父さんの替え玉だということがよく分からなかったのです。
 さて替え玉だとしてみると、その男こそ先生を殺した犯人だということが分かり、同時にとうぜん斎藤が共犯者でなくてはならぬと思った
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