白井さん、これであなたにもお土産ができたわけです。さあ、早く斎藤を連れていって信清さんを帰らせてください」
 白井刑事は先刻から俊夫君のこの意外な説明を、恍惚として聞いていたが、このとき急に我に返って、斎藤を促しながら人々に挨拶をして、急いで出てゆきました。

 あとにはPのおじさん、すなわち小田刑事と令嬢と私たち二人の都合四人が書斎に居残りました。令嬢は悲しさうれしさ取りまぜた涙をそっと拭《ぬぐ》って言いました。
「塚原さん、本当に有り難うございました。父の死んだのは、悲しいですけれど、兄の嫌疑も晴れ、大切な毒瓦斯の秘密もなくならずに済みましたから、私もすっかり安心しました。これというのもみんなあなたのおかげです。
 それにしても叔父は何というひどい人間でしょうか。わたし、本当にびっくりしてしまいました。でも、一体どうしておじの仕業《しわざ》だということが分かりましたか?」
 俊夫君は得意げに言いました。
「この事件を解決してくれたのは、先生の髭《ひげ》ですよ。いいえ、先生の八の字髭ではなく、顎から頬へかけての短い髭です。先生のご病気になられたのが十一日だというのに、私は先生のお顔を
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