替え玉になり、怒った真似をしてお嬢さんを近づけぬようにし、それから信清さん一人を呼びだし電灯を暗くし、顔を半分かくし怒鳴りつけて喧嘩し、信清さんが寝てから、死体をベッドの上にあげ、信清さんが落とした手拭《てぬぐ》いを拾ったのを幸いに、それを先生の首にまいて罪を信清さんになすりつけようとしたんだ。
ね、それに違いないだろう。朝鮮浪人はいつの間にか外国の間諜《スパイ》になって、大事な国家の秘密を奪おうとしたんだ。だが、天は悪人に加担しないよ。せっかく先生を殺しても、肝心の毒瓦斯《どくガス》の秘密は、とうとう見つからなかったのじゃないか。
お嬢さんの留守中、婆やの耄碌《もうろく》しているのを幸いに、君たち二人は書斎をはじめこの家の隅から隅まで血眼になって捜したんだろう。ところがかえって僕に横取りされてしまったので、君は残念に思って危険を忘れて張本人へ電話をかけにいったのだろう。そして今晩あたり、僕を殺して秘密を奪《と》ろうぐらいの相談をしたのだろう。
それがそもそも運のつきさ。おかげで難なく重大な売国奴を逮捕することができて、大事な秘密は外国の手に渡らずにすみ、大日本帝国万歳だよ。
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