く、俊夫君の言うままに手錠をかけますと、斎藤は死人のように青白い顔をして俯《うつむ》いていました。
 と、この時、さっき出ていった小田刑事がはあはあ言いながら入ってきました。
「俊夫君、難なく捕まったよ」
 と小田さんは、冬にもかかわらず額の汗を拭き拭き、うれしそうに言いました。
「それは有り難う」
 こう言って俊夫君は斎藤のそばに歩み寄りました。
「斎藤君お気の毒だが、犯した罪は引き受けねばならぬよ。さあもう何もかも白状しなさい。蔦屋《つたや》の青木さん、いやお嬢さんの叔父さんも捕まったそうだから」
 斎藤は眼をつぶったまま黙っていました。
「よろしい」
 と俊夫君は申しました。
「君が白状しないならば、僕が代わりに君たちの犯罪の顛末をお話ししよう。すなわち君は遠藤先生の恩を仇で返したんだ。
 先生の弟すなわち朝鮮浪人の手先となって、お嬢さんが須磨へ出立された十三日の晩に、二人で、病気中の先生を絞殺し、先生の死体を風呂桶の中へ入れ、腐らぬように雪を取ってきて桶につめ、お嬢さんと信清さんが帰ってこられた昨晩、死体をベッドの下へ運んできておき、ベッドの上には叔父さんが付け髭をして、先生の
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