しょう」
「その財産のほしいような事情が最近に無かったか聞きたいのだ」
「お嬢さんどうですか?」
 と俊夫君が申しました。
「兄は身体《からだ》が弱いのでどこへも遊びに行かず、月々私は父の命令で百五十円ずつ送っておりましたが、それさえ使いきれぬぐらいでした」
 こう答えてから令嬢は、白井刑事の質問に答えつつ、兄さんのおとなしい性質を逐一物語ったので白井刑事もしまいには、
「ふむ、してみると殺害の動機はやっぱり毒瓦斯《どくガス》の秘密かな」
 と言いました。
 俊夫君は、白井刑事と令嬢との長い問答にもあまり耳を傾けず、時々懐中時計を出して見ては、何だかそわそわしていましたが、ちょうど、小田刑事が去られてから三十分ほどたったとき、突然、大声で、
「白井さん、早く信清さんを帰らせてください。ねえ、斎藤さん、信清さんに罪は無いでしょう」
 と申しました。
「僕は知りません」
 と書生は少し面食らって言いましたが、白井刑事も俊夫君の声に驚いて、
「なぜ?」
 と聞きました。
「なぜって白井さん、先生の殺されなさったのは昨夜《ゆうべ》じゃないですから」
「え?」
 と白井刑事は驚きましたが、私たち
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