出て、いま聞いたことを紙に書き、書斎に入ってゆきました。と、俊夫君が出てきて、
「兄さん、ご苦労様」
と言いながら、私から紙片を受け取り、一応それを見てさらに何やら書きつけ、小田刑事に渡しました。
「Pのおじさん、すみませんが、これからお使いに行ってください。用事はここに書いてあるから」
小田刑事は俊夫君の言うことなら、何でも聞いてくれます。
「それじゃ白井君、ちょっと失礼するよ」
こう言って小田さんは出てゆきました。
朝鮮浪人
小田刑事が出ていった後で、私たち五人――白井刑事、俊夫君、令嬢、書生、私――はしばらくのあいだ黙って、互いに顔を見合わせておりましたが、やがて白井刑事は落ち着かぬ声で俊夫君に尋ねました。
「俊夫君、犯人は分かったか?」
「あら、犯人は信清さんだというじゃないですか?」
と俊夫君は意地悪そうな顔で言いました。
「それが証拠というのは、あの手拭《てぬぐ》いだけだからねえ……」
「それじゃもっと他の証拠を集めたらどうです」
「だから、犯罪の動機を聞きにきたわけさ」
「すると財産のことですか、遠藤先生が亡くなられれば、財産はとうぜん信清さんのもので
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