さんは俊夫君と卓子《テーブル》に向かいあって腰かけました。
「ご承知かもしれませんが、私が遠藤信一の娘でございます」
「ああ、遠藤先生のお嬢さんですか、先生は相変わらずご研究でございますか?」
と俊夫君は言いました。
令嬢は急に悲しそうな顔になって、
「実は父が昨晩亡くなったのでございます」
「え?」
と俊夫君はびっくりして飛びあがりました。
「それは本当ですか?」
「はあ、それも誰かに殺されたのでございます」
俊夫君はますます驚きました。遠藤先生というのは東大教授の遠藤工学博士のことで、博士の発見された毒瓦斯《どくガス》は、従来発見されたどの毒瓦斯よりも飛び離れて強力で、その製法は国家の秘密となっているので、その秘密を奪うために欧米諸国から間諜《スパイ》が入り込んでいるとさえ評判されているのです。
しかし、その製法を書いた紙片《かみきれ》は大学の教室にかくしてあるのか、自宅にあるのか、博士の他に誰一人知るものはなかったのです。で、いま博士の令嬢から博士の変死を聞いた私は、博士が毒瓦斯の秘密を奪おうとする間諜《スパイ》のために殺されたのではないかと思ったのです。
俊夫君も同
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